어른이 되면 멋친 남친과 드라마같은 데이트를 싶어~라고 계속 생각했어요.
그래 예를 들면 요코하마!
살짝 역사있는 이국적인 거리를 손을 잡거나 팔을 끼거나 하며 둘이서 산책한다던가 박물관이나 기념관으로 쓰이는 듯한 메이지·다이쇼시대에 지어진 서양식 저택에서 미려한 스테인글라스를 보는 등… 얼마나 로맨틱하지 않습니까?
배가 고프면 차이나타운에서 이국 정서를 즐기며 중화 요리를 먹는 겁니다. 스프링롤, 새우교자, 소룡포등등… 딩섬은 상상하는 것만으로 황홀합니다. 중화 요리 꽤 좋아합니다.
밤이 되면 반짝이는 야경을 보면서 남친의 애차로 드라이브. 그야말로 어른의 데이트라고요. 애인과 함께 베이브릿지에서 보는 야경은 예쁘겠죠.

예… 그런 꿈을 가진 시절도 있었습니다.
그때의 내게 충고를 할 수 있다면 제대로 충고하고 싶어.

그 꿈은 일본이니까 가지는 것이라고, 이세계에 떨어짐과 동시에 소각, 마음 속 쓰레기통에 구겨 버려야 했어, 라고!
하다 못해서 거절해도 거절해도 깜짝 놀랄 만큼 긍정적으로 생각하고 끈질기게 달라붙은 제멋대로 왕자에게 말을 하는 게 아니였어, 라고!
내 꿈을 이뤄주는 것은 아무리 왕자님이라도 무리니까! 같은 쓸데없는 발언을 하는 게 아니었어, 라고!

빨리 꿈을 버렸다면 지금 이렇게 침대에 쓰러져 있을 터가 없지!

오늘 점심 언제나와 같이 제멋대로 왕자, 외견은 10명이 보면 10명이 반해버릴 듯한 민마. 신전에 장식된 조각보다도 아름답도 단정한 얼굴은 예술가의 혼을 뒤흔들고 짙은 금발은 살랑살랑거리며 살짝 긴 앞머리 쓸어올려야 보이는 짙은 자주색을 띈 감색 눈동자가 바라보면 반하여 움직일 수 없는 사람이 속출한다는 것.
외견만이 아니라 머리도 좋다는 것같다. 왕세자의 오른팔이자 수석 마술사. 미성으로 읊어지는 주문에 황홀해진다고 하네.
체형은 근육이 제대로 붙은 기사나 병사가 많은 중간, 그럭저럭 검도 다룰 수 있는 살짝 마초에 장신. 팔다리의 비율은 평균적인 일본인이 보기에 짜증날 정도로 좋다. 마술사로 기본적으로 실내에서 지내는 일이 많은 탓인지 피부가 하얘 무서울 정도로 수려하다.

그야말로 관상용 미남.
내 옆에 세우고 싶지 않는 미남

하지만 속은 그다지 예의범절을 모르는 제 2차 반항기는 꼬맹이. 자기가 원하는 것을 이루기 위해서 수단을 고르지 않는 지혜와 권력이 있는 만큼 꼬맹이보다 성가신 존재 민폐도 이런 민폐가 없다.
내 어디가 좋은 지 모르겠지만, 솔직히 성가실 정도로 달라붙는다. 소환한 것으로 일은 끝났을 터인데, 내가 원래 세계로 돌아갈 수 없는 것도 "싫어. 안 돌려 보낼 꺼야"라고 우기는 왕자 탓이다.
이 왕자, 곤란하게도 마술 쪽으로는 탑 클래스의 실력의 소유자로 소환하는 것도 귀환하는 것도 왕자가 협력하는 것이 필수적이라고 말했다.
즉, 이 왕자께서 놀다 질리지 않는 한, 내가 돌아갈 수 없는 것. 내 어디가 맘에 들었는 지는 모르지만 솔직하게 짜증날 정도로 달라붙는다. 소환한 목적은 끝났는데 내가 원래 세계로 돌아가지 못하는 것도 '싫어 못돌려보네'라고 주장하는 왕자 탓이다.

이 왕자 곤란하게도 마술쪽에서는 톱클래스 실력을 가져서 소환에도 귀환에도 왕자가 협력하는 게 필수란다.

즉, 이 왕자가 날 가지고 노는 게 질리지 않는 한, 난 못 돌아간다. 왕자를 대하는 자세나 언동이 살짝 엉성한 것은 어쩔 수 없다고 생각한다. 불결죄로 처벌받을 만한 언동인데 웃어넘기니 피로감만이 남는다.

내 언동에 따라 주위 사람이 당황하여 거리를 벌리거나 떨어져 주면 좋겠지만 굳이 어느쪽이나 하면 커플로 달라붙게 하려고 획책하는 느낌이 든다.

덕분에 おかげで、わたしは常識と思いやりと空気を読むことの大事さに気が付いた。 いくら顔が良くても、血筋が良くても、権力や地位や金があっても、付き合えない。 全く噛み合わない話をするのが苦痛で、わたしをこの世界にとどめようとする我儘さに苛立ちが抑えられない。


我儘王子に付き合わされる、迷惑で嫌で仕方がない昼食が終わった。 基本的には何やら色々と喋っている王子に適当に相槌を打っておけばいいだけの簡単なお仕事だ。 楽しい食事ではないのと味がいまいち感じられなくなるストレスさえ除けば、衣食住が保障されたこの生活はギリギリ我慢できないものではない。

午後の仕事に王子を送り出せばわたしの仕事は終了だ。 ホッと安堵の息を吐いていると、突然王子が「デートとやらに出かけるぞ」と言って、わたしの腕を掴んだ。

反射的に王子の手を振り払って、キッとまなじりを釣り上げる。


「ちょっと、午後からのお仕事は!?」

「もう終わらせた。君のためならこのくらい私にとっては……」


王子が軽く頬を染めながら、何やらだらだらと言い始めた。 これから口説き文句に入ると長いので、いつも通り笑顔でばっさりと断ち切る。


「わたしのためなら、休むことなく、ずっと仕事やっててほしいんですけど?」

「相変わらず君は照れ屋だな」

「違うし!」


相変わらず我儘王子とは会話が成り立たない。

わたしの言葉の意味が理解できないのか、最初から聞いていないのか、諦めの溜息を吐いていると、王子がくるくると長い指を動かして、ごにゃごにゃ呪文を唱え始めた。

ぐにゃりと視界が歪んで、くらりと身体の重心がぶれる。

苦手な転移魔術だ。


「ひっ!? や、やだっ!」


王子が逃げ出そうともがくわたしの腰を捕らえて、ぞくぞくするような美声で呪文を唱え続ける。

眩い光が辺りに満ち始め、思わず目を固く閉じた。


自分の足が地について、じわじわと平衡感覚が戻ってくるのがわかる。 くらくらする頭を押さえて、三半規管を宥めつつ、何度か目を瞬きながら焦点を合わせた。

目の前に髑髏。

空っぽの眼窩と目が合った。

槍がオレンジに変色している頭蓋骨を斜めに走り、ぼろぼろになった布の切れ端はマントか何かの名残だろうか、錆びた金属と肩にくっついている。


「いいいいいやあああああっ!」


思わず悲鳴を上げて、わたしは王子にしがみつく。

何これ何これ何これ何これ! ?


「ふむ。君から積極的に抱きついてくれるほど、喜んでくれるとはな。異世界の者の好みはなかなか理解しがたい」


理解しがたいのはそっちだから!

一体何を考えてこんなところに連れてきたのよ! ?


「ここ、何なんですか!?」


涙目で問いかけるわたしに、王子はきょとんとしたように首を傾げてのたまう。


「歴史と異国情緒のあるところを散歩するのだろう? 我が国にとって、ここは歴史的に大きな転換点となったところだ。地形的に他国の者が往来するのは難しいだろう? 国で異国の物が一番多いのがここだ」


なんということでしょう。

歴史的な異国情緒あふれる戦場跡に連行された。

白骨に深く突き刺さった剣や槍が赤黒く錆び、どこの誰のものかもわからない白骨が木に張り付けになったままいくつも晒されている。

風雨にさらされてぼろぼろになった布や錆びた武器を指差して、「我が国とは意匠の違う武器があるだろう」とにこやかに言われても、とてもじゃないが、直視できない。

戦争さえない平和な日本では、作り物の髑髏やお化け屋敷でさえ怖くて直視できなかったのに、本物なんて……。

目を閉じても脳裏に焼きついた髑髏に込み上げる吐き気。 最悪の気分と戦いながら、わたしは必死にその場から目を逸らし、王子の腕にすがりつく。 転移魔術で連れて来られたので、一人ではこの戦場跡から逃げ出すことさえできやしない。


「さて、小腹が空いたな。次は食事だ。行くぞ」


何やら満足そうに王子は笑みを浮かべているが、はっきり言って無理。 こんなものを見せられた後で、ご飯なんて喉を通るはずもない。 昼食を全部吐きそうな時に、一体何を考えているのか。

でも、お城に帰るのは大賛成だ。 戦場跡からは一秒だって早く脱出したい。


「このまましっかりつかまっていろ」


そう言って、王子がまたもや転移魔術の呪文を唱え始める。

早く帰りたい。 心の中でそう唱えながら、わたしはぎゅっと目を閉じて、気持ち悪い揺れに身を任せた。


ざわざわとした喧騒に首を傾げつつ、わたしはゆっくりと目を開ける。 城に帰るとばかり思っていたが、着いたのはなぜか城下町の一角だった。

突然現れた王子様に民衆の目は釘付で、当然一緒にいるわたしにも視線はガンガン向けられている。 目立つのが苦手なわたしには視線の刃が拷問でしかない。


「王子、わたし……」


帰りたいと訴える前に、王子がグイッとわたしの手を引いた。

育ちが良い王子のエスコートは実にスマートで、わたしの意思とは関係なく王子の行きたい方向へと運ばれていく。


「ここで、チューカを食べるぞ」

「え? ちょ、ちょっと、待って」


王子が示す店の前には騎士団の方々が安全の確保のためだろう、ずらっと勢揃いしている。 略式とはいえ、光を反射する鎧に身を固めた筋肉マッチョが20名。 往来にとってはこの上なく迷惑だと思う。

そんなマッチョに囲まれて、ひーっと恐縮しまくって、顔色が真っ青になっているおじいちゃんが多分目的地の店主だ。

武装した騎士団が勢ぞろいして、王子が買いに来たとなれば、緊張するなとは言えない。 むしろ、ごめんなさいとスライディング土下座したい心境になる。


「チューカを一つ」


王子は朗々と笑顔で注文する。

騎士団長に向かって。

王子の注文を受けた騎士団長がくるりと店主に向き直る。

店主は愛想笑いらしきものを浮かべようとしているが、とても笑顔にはなっていない。 ビクッと全身が竦んで、手が震えている。


「チューカを一つだ、店主」

「は、ははは、はひっ!」


人の良さそうなおじいちゃん店主が泣きそうになりながら、紙に包んだチューカを差し出した。

騎士の一人がそれを受け取り、包みを開けて、毒の探査を魔法で行う。 問題なしと判断された包みが騎士団長に渡り、騎士団長の手で王子に手渡される。

うむ、と満足そうに一つ頷いた王子が、わたしに向かって包みを差し出した。


「ほら、食べろ。お前の食べたがっていたチューカだ」

「はぁ……」


食べたいなんて一言も言った覚えないですけど。

戦場跡を見せられた上に、短時間に二度も転移したせいで、頭の芯がくらくらしている。 正直、気持ちが悪くて、物を口に入れたくない。

しかし、ここで「いらない」と言えば、王子の八つ当たりを受けるのは、この人の良さそうな店主だろう。

仕方なく包みを開けた。


「うぁっ……」


ここで包みを放り出さなかった自分を褒めてあげたい。

中にあったのは、黒い物体。 油の匂いから、何かの唐揚げだろうという予想はできる。

しかし、どう見ても黒い悪魔Gにしか見えない。


「食べないのか?……まさか、チューカではないのか?」


じろりと王子が店主を睨めば、騎士達がシャッと一斉に剣を抜いて、店主につきつけた。

ひぃっと息を呑んだ店主が今にも死にそうな顔で必死に身の潔白を言い募る。


「チューカですっ! 間違いなくチューカです! そうですよね、お嬢様?」


無実の人の命がかかった状況で、「違う」なんて言えるはずがない。 こくこくと頷いて、肯定だけは急いでしておく。

わたしの思う中華ではないが、ここではこれがチューカと呼ばれるものなのだろう。


「……今ちょっと転移酔いで、気持ちが悪いんです。油の匂いが……えーと……」


何かこの場を丸く収める方法はないだろうか。

辺りを見回し、蒼白の顔をしている店主と険しい顔の王子と手にしたGを見比べる。 自分は食べずに、王子の機嫌を直して、店主を救う方法。


「だから、その……はい、王子。あーんしてください……」

「なっ!? このような公衆の面前で、君は……」


王子の言い様では、公衆の目がなければいつでもしているように聞こえるが、断じてしていない。 初めてだ。

しかも、この王子、照れた風を装いつつ、しっかり口を開けている。

背に腹は代えられない、とはいえ、「はい、あーん」なんて、憧れの恋人シチュエーションをこの王子とやることになるなんて最悪だ。

Gに触れぬよう、細心の注意を払って、紙包みの中のGっぽい黒い物体を王子の口に放り込んだ。

王子がボリンボリンとGを噛み砕く音にぞわぞわと鳥肌が立つ。 気持ち悪い。 あり得ない。

わたしが一歩引き気味に王子を見ていると、食べ終わった王子がこの上なく満足そうな笑みを見せた。


「味はともかく、君に食べさせてもらうのは、いいな」


あぁ、やっぱりおいしくないんだ。

食べなくてよかったと思いながら、騎士が剣をおさめるのを見る。 王子をつけ上がらせた結果に終わったが、王子の機嫌が直ってこの場が丸く収まって助かった。

腰の抜けている店主に心の中で謝りながら、王子の手を引く。


「お城に帰りましょう。外をぶらぶらするのは危険です」


これ以上、騎士の皆さんに余計な仕事を押しつけるのも、民衆を慌てさせるのも、ごめんだ。 何より、予想のつかない事態にこれ以上自分がついていけない。

王子は、ふむ、と頷いた。


「あとは、アイシャでドライブだが、アイシャとドライブとは何だ?」

「え? あぁ、愛車っていうのは、大事にしている車です」

「車?」


この世界に車はない。 わからなくても無理はないだろう。

ないものについて詳しく説明できるはずもない。 簡単に説明した。


「えぇと、日本での移動手段の一つですね。車で移動しながら、景色を楽しんだり、道中を楽しむのがドライブです」

「そうか、わかった」


ピュルルルルルル……と王子が口笛を吹く。

口笛が引き起こす事態に予測がついたわたしが「ぎゃーっ!」と叫ぶのと、騎士の皆さんが広場の人達を避難させ始めるのは、ほぼ同時だった。

空が陰ったかと思えば、バッサバッサと大きな音を立てて、飛竜が舞い降りてくる。


「ほら、行くぞ。ドライブだ」


大きな翼を畳んだ飛竜に王子は嬉々として駆けよるが、「行くぞ」と言われても行きたくない。

だって、アレ、怖い。

ワニみたいな縦長の虹彩のぎょろっとした目も、わたしの太腿から爪先くらいあるでっかい爪も、わたしの顔くらいの大きさがある歯も、口の端から滴り落ちるサッカーボールのような大きさのよだれも、一吹きで飛ばされそうな荒い鼻息も、辺りの出店さえ簡単に凪ぎ払う尻尾も、武器をそう簡単に通さない固い鱗も、何もかもが怖い。


「……嫌。か、帰ります」

「そう。城に帰るんだ」


王子は何故か嬉しそうに「君は本当に手がかかるなぁ」と言いながら、嫌がるわたしをお姫様抱っこして、飛竜に飛び乗った。


「いやあああああああああ!」


遊園地で観覧車に乗れないくらい高所恐怖症なのに、ジェットコースターで失神しそうになるくらいスピード恐怖症なのに、飛竜のドライブは見事に両方に当てはまる。

遊園地と違うのは安全ベルトがないということ。 申し訳程度についている鞍にしがみついていても視界はぐるぐる回って、上から下へと急降下する。 必死で掴んでいる手の力が一瞬でも抜けたら、地面に真っ逆さまだ。

いつもなら振り払う王子の手が安全ベルトにしか思えない。 高さとスピードに泣きながら、王子にしがみつく。


「君がこんな風に甘えてくれるなら、一風変わった異世界デートも悪くないな」


楽しそうな王子にツッコミいれる気力さえもうない。

ただ、この恐怖のドライブが一秒でも早く終わるのを待つだけだ。


二度と異世界でデートなんてしない!

早く日本に帰してよ!


異世界デートでふらふらになって寝込んだわたしにお見舞いフラグが立って、王子に軽く殺意を抱くのは翌日の午後のことだった。